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第一回「片子が死なないで済む物語をつくる」

2017年3月26日

参加者:女性3名と私の計4名

時間:1時間強

 都内の自宅にて開催。安心できる雰囲気を演出すべく、音楽をかけてみたり、照明を暖色にしてみたり、ちょっといい匂いをさせてみたりする。外では雨が降っていた。

 第一回ということで、私も手探りの状態ではじまる。まずは片子の物語や作品の概要を説明。片子の自殺を問題視する方向でワークショップを進める中で、テーマを「片子が死なないで済む物語」と設定する。途中で、話を進める為にシーンを具体的にしてゆく。片子が自殺に至る、村に帰ってきてからの場面を箱庭内に再現し、そのシーンからの展開を作り変えていった。はじめはどう進めるべきかが参加者の中で共有されておらず戸惑いがあったが、具体的な村の風景を再現するとたちまちいくつもの物語へと派生していった。

 本編では3人(女房、夫、片子)が村に帰るも、女房と夫は鬼の存在におびえてくらし、片子は村に居場所を見つけられず、自殺によって鬼の侵入を防ぐというストーリーになっている。

 以下は対話の中で生まれた物語の結末部分。→以降は物語に対する反論。

***

<生まれた物語>

・鳥と友達になる(人間以外の生物と暮らす)。

  →鬼だからと言って動物と話せるわけではないのでは?

・家族でどこか違う村へ引っ越す。

  →根本的な問題が解決していないので、引っ越し先の村でも同じ状況に陥る。

・出家する。

  →寺院が良い環境であるとは限らないのでは?

・台風がやってきて、暴風により大木が倒れる。倒木の下敷きになりかけた地元権力者の息子を、片子が鬼の力で救う。それにより村に居場所を見つけ出し、幸せに暮らした。

・そもそもはじめから村人が片子を受け入れる。

・両親が死ぬことによって村人からの干渉がはじまる。両親を失った幼い片子は、家で空腹で倒れている。そこに年長者が村人に隠れておにぎりを渡しにやってくる。次第に両者は打ち解け合い、村に居場所を見つけてゆく。

・旅に出る。自分以外のマイノリティと出会い、見識を広げる。

・ひきこもりになる。

・鬼的なパワーを活かすことで役割を得る。隣村との戦争で活躍する。

・いじめっ子の村人や両親に対して、自分の苦しさを表明する。

  →それが受けとめられない場合もあるのでは?それに受けとめられたところで問題は解決しない。

・両親がもっと働きかける。一家団結して村八分に対抗する。

  →例えば現実のいじめ問題で、両親が出てきたところで解決しない場合もある。

・片子がイケメンなら村に受け入れられる。

***

 単純なワンアイデアから、物語としてまとまりのあるものまで様々な展開が生まれた。ワークショップを設計する前に、構造的に片子に似た物語を調べたのだが、異質性が問題にならない場合や、異質性を活かした英雄譚など、類型的な物語が瞬時に生まれる現場に立ちあったことは興味深かった。

 片子の自殺の理由はいじめによるものではなく、自らの存在が原因で親が村八分にされた為(鬼という脅威を引きよせるなど)、他人に迷惑をかけることを嫌って自殺したのではないか、とうい視点が提出される。「自分の苦しみだけでは人は自殺しない」「村人も優しさがないわけではない。村八分を恐れて行動できないだけ」など、片子の自殺に関する、物語には描かれていない心象が描画されたことが印象深かった。

 そもそも自殺は問題なのか?という疑問がまっさきに提出されたが、今回はあくまで片子が死なない物語を作ることを目的とした。「片子が死なないで済む物語」という消極的なテーマの為、片子が幸せに暮らす結末か、幸せでなくても生き残ることでいいのかが論点となる。今回はできるだけ幸せな方が好ましい、という方向で進めた。

 片子の生き残りに焦点を当てた今回の対話では、片子が生き残る要因として「社会の中で役割を得ること」が重視された。

 最後にまとめとして、少しだけ現実的な議論に接続させる対話を行った。「マイノリティの苦しみは個々人で違い、それを普遍化しようとすることは問題ではないか。たとえ言語化して受け入れられたとしても、現状は変わらないかもしれないし、模範的な回答は結局使いものにならない」などの意見が出る。あるマイノリティ属性としてひとまとめに語られる、困難さを抱えた主体。しかしその苦しみはあくまで個別のものであり、それを取り巻く環境の一つの要素が違うだけで別の物語が生成される。これは個人を取り巻く状況の多様さと、それを描画する物語を考えるうえで面白い視点と思う。

 第1回はこうして終了。退行的な表現の為、大人が積極的に取り組んでくれるか不安であったが、思いのほか楽しんで参加してもらえた。どのような展開になるか未知であったが、思いがけず順調に進み、今後の方向性を指し示す回になったと感じた。

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